「考える」ことについて

 【「私はダメだ」と自分を責めることについて】

 曝露療法でネガティブな感情を受け入れるのは構いません。しかし、「私はダメだ」という思考を受け入れてはいけません。なぜなら、基本的に、感情自体は良いものでも悪いものでもないので、ネガティブな感情を受け入れても、それは、心に存在するネガティブな感情でしかないですが、「私はダメだ」という思考を受け入れると、それにより、そのネガティブな感情を使って自分を責めるようになってしまうからです。自分を責めることは自分自身を拒絶し、痛めつける行為です。そのため、「私はダメだ」という思考を受け入れることにより自分を責めると心は癒されません。


 「私はダメだ」という思考は、必ずしも心の中にいきなり発生するわけではありません。「私はダメだ」という思考は、ネガティブな感情(無力感、絶望感、悲しみ、憂鬱など)が心の中に湧き上がることが原因となり発生することが多々あります(つまり、まず感情が発生し、その感情をもとにして「私はダメだ」という思考が発生することが多いということです)。そうであればネガティブな感情を感じたからといって、すぐさま「私はダメだ」という思考をする必要はありません。ネガティブな感情を感じても、「ああ、今、自分は逃げ出したくなるようなネガティブな感情を感じているな...」と自分の現在を、まずは一歩引いた視点から受け止める(観察する)ことも可能です。「私はダメだ」という思考は、感情に対する関わり方だと言えます。感情が心の中に湧き上がってきたとき、人間はその感情に対して自分はどう関わるのかを、多くの場合、無意識的な反応で決定します。その結果、感情に対する関わり方が悪い方向にいってしまった末に発生するのが「私はダメだ」という思考です。心を癒すためには感情を感じているときに「私はダメだ」と"無意識的"に思考するか、それとも、「感情をあるがままに受け入れ、その存在を許し、寄り添うようにしばらく一諸にいる(または「今、自分は逃げ出したくなるようなネガティブな感情を感じているな...そんな感情が存在しているな...」というふうに観察する)」と"意識的"に思考するかにかかっています。このどちらかを思考するかで心が癒されるかどうかが決まります。


 「私はダメだ」という思考に心を奪われてしまう人は、思考するよりも体の感覚(または、衝動)を意識的に感じることをお勧めします。体の感覚を意識的に感じれば、体の感覚に注意を集中しているぶん、思考をすることはそれだけ疎かになります。そのため、体の感覚を意識的に感じることを行えば、「私はダメだ」という思考に心を奪われる状態から脱することが容易になります。

 参考記事≫実践するためのアドバイス
 「重苦しさや不快感と感情の違い」「思考と感情の違い」についての質問に回答しています。


 人間は、感情の苦痛に襲われたとき、無意識的に思考をすることによって、感情との直面を避ける場合があります。そのことは「マインドフルネス認知療法」でも説明されています。

『私たちの多くと同じように、うつ病経験者はしばしば身体での体験よりも頭のなかの思考を重んじる。何らかの理由で、彼らは感情(あるいはそれにまつわること)について考える方が、身体でその感情を体験するよりも「安全だ」と感じてきた。~(略)~また身体から離れて思考に逃げ込むことは、特定のトラウマティックな身体経験と関連した強烈な感情を回避する方法として始まった場合もあるかもしれない。』

 人間は感情との直面を避けるために、無意識的に思考に逃げ込むことがあります。けれども、そのように思考を使って感情から逃げると、感情と直面することができなくなるため、効果的な曝露療法を行うことが難しくなります。そのため、ネガティブ思考で苦しんでいるときや、落ち込んだとき、挫折体験をしたときなどは「自分は思考を使って感情から逃げていないか?」ということを自問して、自分がちゃんと感情と直面しているか確かめてみることをお勧めします。確かめてみた結果、思考を使って感情から逃げていたことが分かれば、自分の行動を修正して感情と直面することが出来るため、そこで初めて、効果的な曝露療法を行うことが可能になります。


 【悪い考え方について・その対処法】

 悪い考え方は、うつ病・トラウマの症状が持続する原因となります。ただ、「考え方が悪いからうつ病・トラウマの症状が持続する」というよりも、「心に蓄積しているどうしようもない感情に影響されて、考え方が悪くなり、うつ病・トラウマの症状が持続する」ということのほうが、より正確だと思います。考え方が悪くなるのは必ずしもその人の落ち度ではありません。それこそが、うつ病・トラウマの症状です。うつ病・トラウマの症状におかされれば、誰しも考え方が悪くなります。それは当たり前のことです。そのため、考え方が悪いことで過度に自分のことを責める必要はありません。けれども、うつ病・トラウマの症状に苦しんでいる人は、自分の意思で考え方を変えることが絶対に出来ないわけではありません。ためになる精神療法の本を読めば、悪い考え方を変えることも可能になります。そして、曝露療法をすることでも悪い考え方を変えていくことができます。曝露療法をしていると、自分の心を癒す手がかりに気づいたり、考え方が自然とやさしいものになったりして、徐々に徐々に自然と考え方が前向きになることが多いです。そのため、悪い考え方に苦しんでいる人は、まずは曝露療法を徹底的に行うことをお勧めします。曝露療法を継続して行っていくうちに、新たな気づきが得られれば、自然と悪い考え方を修正することができます。(心に蓄積しているネガティブな感情がある程度浄化・解消してくれば、思考はそのネガティブな感情の悪影響を受けなくなるため、以前よりも前向きな思考をすることが容易になります)


 ネガティブなことを考えていると、それにより嫌な気分が増します。そうなると、その嫌な気分によって、更にネガティブな思考が喚起されて、そのネガティブ思考が止まらなくなり、最終的に、「自分はダメだ」と考えるようになることが多いです。このように、ネガティブ思考は精神状態を悪化させる大きな要因になります。ただ、ネガティブなことを考えることは人間ならば誰しも行うことであり、それは普通のことですが、それが「ネガティブ思考を延々として、その思考が反芻される」という状態になると問題が多くなります。こういった状態になると、ネガティブ思考が心の中で何回も繰り返されるようになるため、その悪影響により非常に苦しむようになります。では、この状態に対処法するためには、具体的にどのようなことを行えば良いのかというと、それは、「自分がネガティブな思考を反芻していることに気づいたときは、頭で考えることよりも体の感覚に意識を向けて、体に感じている"感情"を感じる」ということを行う必要があります。この行為を行えば、頭を使って考えることよりも体の感覚を感じることを優先することが出来ます。体の感覚を意識的に感じれば、体の感覚に注意を集中しているぶん、思考をすることはそれだけ疎かになるため、体の感覚を意識的に感じることを行えば、ネガティブ思考をすることは難しくなります。(感情は体の感覚を通して知ることができるため、体の感覚に注意を向けることは、感情を意識的に感じることにつながります)。こういったことができれば、「ネガティブ思考を延々として、その思考が反芻される」という状態を中断させることが出来ます。なお、この対処法を行い、感情が処理されて気分が楽になってくれば、ネガティブ思考は消えて行くことが多いです。(ネガティブ思考をしているときは、心の中でしゃべっていることが多いので、「自分が今、ネガティブなことを心の中でしゃべっているな...ネガティブ思考で苦しんでいるな...」と気づいたときは、心の中でしゃべることを止めて、「頭で考えることよりも体の感覚に意識を向けて、体に感じている"感情"を感じる」ということを行うことをお勧めします)


 自分の考えをノートに書けば、その自分の考えを吐き出すことができます。そのため、ノートに自分の考えを書く行為も、悪い考え方に対処し、心を癒すための有効な手段になります。また、自分の気持ちや考えをノートに書いてみると、頭の中にあったことが表現されるため、気持ちや考えの整理を客観的に行うことが容易になります。それができれば、頭の中でぐるぐると同じ事を考えたり、何回も悩んだりすることは少なくなります。ちなみに、ノートに書く行為を行っていると、今まで思いもしなかったような気持ちや考えが浮かんできて、「自分はこんなことを気持ちや考えを抱いていたのか...」という発見をすることができる場合があります。そういった発見があれば、自分の気持ちや考えの整理が進み、更に心を安定させることができます。




















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