効果的な感情の感じ方

 効果的な感情の感じ方を紹介しています。


 ①『逃げ出したくなるような記憶や感情に襲われたとしても、それを受け入れ
   て感じる

 曝露療法では、逃げ出したくなるような記憶や感情に襲われたとしても、それを嫌だと拒否するのではなく、受け入れて感じ続ければ、効果的に心を癒すことができます。

 そのことは、「PTSDの持続エクスポージャー療法」でも説明されています。


 『ほとんどの場合において、最もつらい記憶がうまく処理されるとそれ以外の記憶にも効果が及び、つらさが軽減される』

 『最初のホットスポット(注:現在最も苦痛を感じるトラウマや感情)で、「最悪の」トラウマ記憶か、もしくは現在最も大きな苦痛や再体験症状の原因となっているトラウマ記憶に焦点をあてて話すようにすると、その記憶の治療効果はしばしば他の記憶へも汎化し、それらの記憶は直接エクスポージャー(注:曝露療法)をしなくとも情動的に処理されるようになる。』

 
 このように、逃げ出したくなるような記憶や感情を受け入れて感じることは、高い治療効果を得るための有効な手段になります。

 実際、逃げ出したくなるような記憶や感情を受け入れて積極的に感じると、効果的に心を癒すことが出来ます。

 そのため、逃げ出したくなるような記憶や感情に襲われたときは、それを、あるがままに受け入れて、感じ続けることをお勧めします。
 

 (感情の刺激は必ずしも強烈である必要はありません。弱い感情を感じても効果的に心を癒すことができます。弱い感情だとしても「それから逃げ出したい!」と感じるのであれば、それは、逃げ出したくなるような感情だと言えます)


 ②『感情を受け入れ、身体感覚に意識を集中して、今この瞬間に感じている
  感情の感覚にとどまる

 強烈な感情に襲われたとしても、感情を受け入れ、身体感覚に意識を集中して、今この瞬間に感じている感情の感覚にとどまれば、その感情に以前よりも対処することが出来るようになります。

 こういったことは、セラピストであるバベット・ロスチャイルドの、「PTSDとトラウマの心理療法」という本でも説明されています


 『予想とは反対に、このクイックスキャン法(注:身体感覚に意識を向けるやり方)のもとで身体感覚に意識を向け、述べることを勧められることで、クライエントは通常、不安感が増えるというよりは、むしろ少なくなるのです。クライエントがいったんこの方法に慣れると、その多くが、トラウマ治療の間、現在の感覚へとすばやく移行することに安堵感があると報告しています。身体意識は、現在への安全な連結になることができるのです。』


 また、この他にも、マサチューセッツ大学医療センターストレス緩和クリ二ックの所長であるジョン・カバットも、同様のことを次のように説明しています。


 『私は「からだのことを忘れるほど楽しいことを想像しなさい」とは言いません。「体の中に入っていきなさい」と言います。注意をそらすのとは正反対です。研究によれば、気を散らすのは痛みをある程度まで和らげるには、たいへんいいのですが、その程度を超えてということになると、精神を集中する方法ほど効果はありません。精神を感覚そのものに集中し、その感覚が思考から切り離せることに気づいてほしいと思います。』

 『そこでやっているのは、ストレスや痛みのなかに入り込み、それを正視し、こころの反応に気づき、それを取り払う訓練です。そうすれば、その苦しい状況のなかに、内なる静穏と平和を見つけることができます。』

 (「こころと治癒力」より抜粋)


 気を散らすことで感情の苦痛を和らげることは可能ですが、その程度を超えてということになると、気を散らすことは、精神を集中する方法ほど効果はありません。

 そのため、ある程度の感情の苦痛に襲われたときは、その感情を受け入れ、身体感覚に意識を集中して、今この瞬間に感じている感情の感覚にとどまることが大切になります。


 ③『焦らず気長に感情を感じる

 心が楽になる感覚は、感情を長い時間継続的に感じ続けなければ、体に感じることはできません。

 したがって、感情を感じるときは「いつ、心が楽になっていくのか?」と結果を気にして、焦る気持ちで感情を感じるのではなく、「感情に寄り添ってしばらく一諸にいる」という感じで、気長に感情を感じることが大切になります。

 そうすれば、余計な焦りや迷いを感じずに済みます。

 こういったことが曝露療法において大切になるということは「不安障害の認知行動療法〈3〉」に載っている、次の文章を見ても分かります。

 
 『恐怖の対象(それが状況であろうと記憶であろうと)に直面しているとき、もっとも重要なことは、もしあなたが十分な時間そこにとどまっているなら、不安は下がるだろうということです。どのくらいの時間で十分なのかという質問に対する答えはありません。不安は15分~20分でかなり下がることもあります。1時間かそれ以上かかる場合もあるかもしれませんが、最後には結局不安は減少するでしょう。きわめて重要なことは、不安が減少するまで十分な時間、恐怖の対象となる状況にとどまるよう努力することなのです。』


 このように、感情を感じ続けていれば、確実に心は癒されていきます。

 そのため、焦らず、訪れるがままに任せて、気長に感情を感じていってください。


 ④『邪魔な記憶や感情を今すぐ消し去ってやろう、と考えるのではなく、
   それらを、受け入れる、認める、その存在を許す

 結果を気にして、焦って感情を感じると、無意識的に「邪魔な記憶や感情を今すぐ消し去って一刻も早く楽になりたい」というふうに考えて、曝露療法をするようになる場合があります。

 しかし、そのようなことを考えていると、曝露療法は上手くいかないことが多くなります。

 なぜなら、トラウマの記憶とは、いわば過去の自分であり、ネガティブな感情も自分の中から湧き上がってくる自分自身の一部だと言えるため、「今すぐ消し去ってやろう」と考えてトラウマの記憶やネガティブな感情を感じることは、自分自身に対して「今すぐ消し去ってやろう」と言うのと同じだからです。

 「今すぐ消し去ってやろう」と考えてトラウマの記憶やネガティブな感情を感じると、トラウマの記憶として生き続けている当時の自分や、自分自身の一部である現在の感情は、受け入れられず、抱きしめられることがありません。

 そうなると、自分という存在(自分の記憶や感情)が自分自身から否定されてしまうので、心は癒されません。

 心を癒すためには、トラウマの記憶やネガティブな感情を、受け入れ、認め、その存在を許すことが大切になります。

 トラウマの記憶やネガティブな感情の存在を否定するのではなく、それをあるがままに受け入れ、認め、許せば、それにより過去や現在の自分を、あるがままに受け入れ、認め、許すことが可能になります。

 それは、自分のことを労わり、愛することにつながります。

 そのため、トラウマの記憶が浮かんできたり、ネガティブな感情に襲われたときは「早く消し去ってやろう」と考えるのではなく、それらをあるがままに受け入れ、その存在を許し、寄り添うようにしばらく一諸にいることをお勧めします。

 そうすれば、そのトラウマの記憶やネガティブな感情は癒され、そして、自分自身が癒されます。

 
 ―補足情報

 【受け入れることが大切・焦らず感情を感じることが大切】

 曝露療法で心が楽になる感覚を1回体験した人は、それ以降の曝露療法がなかなか上手くいかなくなることがあります。それは何故かと言うと、心が楽になる感覚を1回体験をすると、その体験をまたしたくなるので、「いつ、心が楽になるのか?」ということを考えながら感情を感じるようになる場合があるからです。そのようにして結果を気にして感情を感じると、無意識的に「邪魔な感情を今すぐ消し去ってやろう」と考えるようになってしまうため、曝露療法が上手くいかなくなることが多くなります。また、「いつ、心が楽になっていくのか?」ということばかり考えて焦って感情を感じると、今現在感じている感情を無視することになってしまいます。そうなると、集中力が散漫になり感情を十分に感じることが難しくなって、曝露療法の効果が薄くなります。(あまり結果を求めず、今という瞬間に集中することが大切です)


 【感情を感じると一時的にその感情が高まることがあります】

 感情を感じると一時的にその感情が高まることがあります。そのことは「不安障害の認知行動療法〈3〉」でも説明されています。

 『また、不安は下がり始める前にいったん上昇することが多いということは知っておきましょう。この一時的な上昇は、回避や逃避を引き起こすのに十分なものであることが多いのですが、不安が減少するまで、この間ずっとあきらめずに恐怖の対象となる状況に耐えることがきわめて重要です。~(略)~不安は一直線に減少するとは限りません。ときどきわずかな増加があるかもしれません。しかし全体的には下降傾向にあります。』

 感情が高まったとしても、それをずっと感じ続けていれば、その感情は収まっていきます。そのため、感情が高まったときは、焦ったり、迷ったり、パニックにならず、その感情を感じ続けることが大切になります。


 【悲しみに襲われることは必ずしも悪いことではありません】

 曝露療法をしていると悲しみの感情に襲われることがありますが、それは必ずしも悪いことではありません。そのことは、「PTSDとトラウマの心理療法」に載っている、次の文章を見ても分かります。

 『悲嘆は、ある体験が過去へと追いやられる徴候です。トラウマのクライエントが悲嘆が湧き上がる段階に到達する時の、通常は肯定的な徴候なのです。時には、クライエントが、自分の悲嘆はトラウマへの退行であると恐れるかもしれませんが、通常はまさにその逆で、癒しの前進なのです。身体意識に働きかけると、ほとんどのクライエントは悲嘆によって悲しめば悲しむほど、もっと安定しもっと恐怖感が少なくなるように助けられることに気づきます』

 例えば、泣くことにより心を癒しているときは、悲しみの感情を感じています。また、感動して涙を流しているときや、ジャズなどの音楽を聞いているときも悲しみに似た感情を感じています。このように、心が癒されるときは、悲しみや悲しみに似た感情に襲われることが多いです。そのため、曝露療法を行っているときに、悲しみや悲しみに似た感情を感じたときは、それをあるがままに受け入れることをお勧めします。


 【トラウマや恐怖と直面するのを避けるために怒りを感じている場合】

 怒りを感じることは心を癒すための有効な手段になります。けれども、トラウマの記憶や、それに伴う恐怖の感情と直面するのを避けるために、怒りの感情を感じているのであれば、怒りを感じることは、それほど効果的な行為ではなくなります。特に、怒ることで「自分は強いんだ」というパワーを感じ、それにより自分の心を守っているときは、怒りを利用してトラウマの記憶や恐怖の感情と直面しないようにしているときが多いです。そういった場合は、その怒りの背後に隠れている「癒されていない傷つき」を見つめることが大切になります。(「癒されていない傷つき」を自覚できない場合は、怒りを感じていってください。怒りを感じることは心を癒すために通過しなければならない大切なことであることが多いです)


 【その他】

 感情を受け入れて積極的に感じると、感情を発散するカタルシス(快感)を感じやすくなります。なぜなら、脳の快を感じる部位と苦痛を感じる部位は、ほぼ同じ場所にあるため、苦痛を感じるときには、同時に快楽も感じやすくなると考えられるからです。(苦痛を感じるときには同時に快楽も感じやすくなることは、足裏マッサージ、または、鍼灸の場合を考えてみても分かることだと思います)実際、曝露療法で感情を受け入れて積極的に感じているときは、カタルシスの刺激を感じ取ることが多くなります。なお、ネガティブな感情を発散するカタルシスを感じ取ると治療効果が高まります。


 ネガティブな感情を発散するカタルシスの刺激には、足裏マッサージや針灸をしているときに感じるようなカタルシスの刺激と、心が癒されるような感覚になるカタルシスの刺激があります。前者はネガティブな感情や逃げ出したくなるような刺激を積極的に感じているときに感じやすく、後者は心が楽になる感覚が発生しているときに感じやすいです。


 曝露療法では、基本的に、嫌な刺激よりも"感情"を感じたほうが効果的に心を癒すことができます。
 ≫実践するためのアドバイス
 「重苦しさや不快感と感情の違い」「思考と感情の違い」についての質問に回答しています。


 曝露療法をしていると、吐き気を感じたり喉が苦しくなることがあります。けれども、それは必ずしも悪い現象ではありません。心が楽になる前は吐き気や喉が苦しくなる現象が発生することが多々あるため、そういった現象を体験しても、それを過度に悲観する必要はありません。(吐き気や喉が苦しくなる現象は、感情が浄化・解消しているサインだと考えてもらって構いません。また、この他にも、曝露療法を行うことにより発生する痛みや、瞼がピクピクするような軽い痙攣も、感情が浄化・解消しているサインになります)















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