感情を自ら積極的に感じることにより「慣れる」という現象を発生させることが、心的外傷を回復させるために重要になるということは、曝露療法の内容を詳しく知ると、更によく分かるようになります。
心的外傷の治療に、これまで様々な精神療法治療が施されてきましたが、その中でも、認知行動療法に分類される曝露療法が、精神医療の最前線で近年、特に高い評価を受けている治療法になります。
曝露療法(段階的曝露、想像曝露)とは、自分の感情やトラウマ記憶と直面することにより、その感情やトラウマ記憶に慣れることを目的とした精神療法です。
段階的曝露療法では、トラウマを受けた場面によく似た状況に、患者を直面させます。例えば、暗い小道で襲われたレイプ被害者を、数回にわたり暗い小道に連れて行くと、ついには被害者は、不安や恐怖の感情に苦しむことがなくなります。
段階的曝露療法が効果的な治療法になるということは、ニューサウスウェールズ大学精神科教授であるギャビン・アンドリュースらの著作の「不安障害の認知行動療法〈2〉」でも説明されています。
『結局のところ、恐怖症は患者さんが自分の恐怖に直面するときにのみ克服することができます。これを恐怖の対象である状況への「曝露」と呼びます。最もよく使用される技法は、最初に最も不安の少ない状況に直面することから始める方法です。自信がつくにつれ、だんだんとより困難な状況に取り組みます。この過程は「段階的曝露」として知られ、研究によれば恐怖症を克服するのに強力かつ効果的な技法です。』
想像曝露療法では、患者にトラウマ体験を心の中に想像させ、あたかもその出来事が現在起こっているかのように、その体験や感情に集中させます。
この想像曝露療法も、多くの研究で高い評価を受けている治療法です。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)研究の第一人者として知られる、精神科医ダグラス・プレムナーの「ストレスが脳をだめにする」という本では、想像曝露療法を行うとき、臨床家が患者に、次のような指示を与えるということが紹介されています。
『「眼を閉じて襲われたときの様子を話し始めてください。自分のこととして、あなたの身の上に今まさにふりかかっているように、話してください。話しながら、その光景を心に描いて、何が起こっているか説明してください。できるだけ詳しく、あなたが何をしているかも、相手が何をしているかも、あなたが何を考え感じているかも。その光景が怖くても、追い払わないように、これがすんだらあなたとこのことを話し合いましょうね」』
この他にも、最近ではバーチャルリアリティ(仮想現実)を使用した曝露療法も行われています。
バーチャルリアリティでの曝露療法のやり方は、患者がモニターとスピーカーの付いたゴーグルを頭に着け、映像と音声を使ってトラウマを受けた状況によく似た環境を、疑似体験することを行います。
このバーチャルリアリティでの曝露療法は、1990年代から一部の精神科医が恐怖症の治療に用いている方法で、現在では、イラクやアフガニスタンでの戦争でPTSDになった兵士の治療にも使用されており、既にかなりの成果を上げています。
例えば、バーチャルリアリティでの曝露療法を、半年以上PTSDにかかっている兵士に30日間施術して、その治療効果を調べた実験では、施術なしでは70%強、セラピストのサポートがあった場合でも60%強の人が治癒しなかったにもかかわらず、バーチャルリアリティでの曝露療法を加えた場合では、その割合がおよそ20%台にまで改善しました。
このようなバーチャルリアリティを使用した曝露療法の研究は、アメリカ・サンディエゴにあるバーチャルリアリティ・メディカルセンターで、現在、アメリカ海軍から400万ドルの資金援助を受けて行われています。
また、サンディエゴ海軍医療センターでも、同様の研究が行われており、そこでも、バーチャルリアリティでの兵士の曝露療法治療は成果を上げています。
そのことについて、サンディエゴ海軍医療センターの『健康心理学プログラム』の責任者で、20年以上前から戦闘にかかわる疾患の治療に携わってきたジェイムズ・スパイラ博士は、次のように話しています。
「VR(バーチャルリアリティ)システムを使いだしたこの1年間は、今までにないほど効果的な治療ができている。これまでになし得たどんな治療よりも効果的だと自信を持って断言できる」
← イラク駐留部隊でのバーチャル曝露療法の様子
[参考記事]
戦場再現 PTSD治療
(読売新聞-YOMIURI ONLINE)
A Dose of Virtual Reality
(Business Week via Medgadget)
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