ここまで読んできた方には、ネガティブな感情を積極的に感じるという行為(曝露療法)は、非常に効果的な治療方法であることを理解していただけたと思います。
けれども、ネガティブな感情を自ら積極的に感じるという行為は、一見、とても苦しくて辛いことのように思えるので、中には、この行為を行うことに対して尻込みを感じている方もいらっしゃるかもしれません。
たしかに、この行為を実際にやってみると、ネガティブな感情の嫌な感覚を感じます。時には、とても強烈な感情に襲われることもあります。しかし、そうなったとしても、そのネガティブな感情に十分耐えることができます。
では、なぜネガティブな感情を自ら積極的に感じても、その感情に十分耐えることができるのかと言うと、それは、ネガティブな感情を自ら積極的に感じるという行為をすると、そのネガティブな感情を発散するカタルシス(快感)を感じ取るようになるからです。
人間は次の行為をしているとき、恐怖、怒り、悲しみなどの感情からカタルシスを感じ取っています。
「恐怖」
ジェットコースターに乗る、ホラー映画を見る
「怒り」
怒鳴る、激しい音楽を聴く
「悲しみ」
泣く、ジャズなどの音楽を聴く
このように、私たちはネガティブな感情を自ら積極的に感じることにより、ネガティブな感情を発散するカタルシスを感じ取っています。
うつ病やトラウマの症状で苦しんでいる人は、今までネガティブな感情をできるだけ感じないようにしてきたと思います。しかし、それだとネガティブな感情からカタルシスを感じ取ることはできません。
では、具体的にどういったことに気をつければ、ネガティブな感情を発散するカタルシスを感じ取ることが出来るようになるのかと言うと、それは、ネガティブな感情を受け入れる気持ちになるということが、特に大切になります。
なぜなら、人間は感情の刺激を体に感じたとき、そのことを嫌だと思って我慢(拒否)すると強い不快感を感じ、受け入れる気持ちを持って積極的に感じるとカタルシスを感じるからです。
そのことは、私たちが恐怖、怒り、悲しみなどの感情をどんなときにカタルシスとして感じているのか、よく考えてみると分かります。
ジェットコースターが怖くて嫌いな人はジェットコースターに乗っているとき不快感を感じています。しかし、好きな人はカタルシスを感じています。
イライラしているときは不快感を感じています。しかし、怒鳴っているときはカタルシスを感じています。
悲しみに耐えているときは不快感を感じています。しかし、泣いているときはカタルシスを感じています。
このように、私たちは感情の刺激を体に感じたときに、そのことを嫌だと思って我慢すると強い不快感を感じ、受け入れる気持ちを持って積極的に感じるとカタルシスを感じます。
そのことは、実際に自分の体で試してみると、よく分かります。
ネガティブな感情に襲われているとき、我慢することを止めて、「受け入れる」という気持ちになって、そのネガティブな感情を感じると、その刺激は以前よりも対処可能なものになります。
その対処可能になったネガティブな感情の刺激を、観察するように味わうように感じると、ネガティブな感情を発散するカタルシスを感じることができるようになります。
では、なぜネガティブな感情を受け入れて積極的に感じると、カタルシスの刺激を感じることができるのでしょうか?
その謎には、脳の働きが大きく関係していると考えられます。そのことは臨床発達心理士である山口創さんの「皮膚感覚の不思議」という本で紹介されている、以下の実験結果から分かります。
『2003年にイギリスの心理学者ロールズたちは、手の平に3種類の刺激を与えたときの脳の活動部位を比較した。ベルベットで包んだダボ(快刺激)、尖ったもので刺す(痛みの刺激)、右手で左手に触れる(中性刺激)の3つの刺激だ。すると、中性刺激で活発になったのは体性感覚野だった。~(略)~
ところが、痛み刺激を与えたときも快刺激のときも、同じ前帯状回皮質が活発にはたらいた(痛み刺激には後方部、快刺激では前方部が反応するという違いはあったが)。すなわち、快を感じる部位と苦痛を感じる部位は、脳のほぼ同じ場所にあったのだ。このため、苦痛を感じるときには同時に快楽も感じやすいのだと思われるのである。』
この脳の働きが、ネガティブな感情の不快感がカタルシスの刺激に変わるという現象に、大きく関わっていることは間違いないと思います。
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